このワダイ、3行で
- 富士フイルムは2026年10月29日、データ保存用の磁気テープの製造能力を約5倍にすると発表しました(約100億円の投資で、同社のLTOテープ専用設備への投資としては過去最大規模。生成AIの普及に伴うデータアーカイブ需要への対応と説明しています)。日本経済新聞は前日の10月28日に先に報じ、大規模な増産投資は約20年ぶりと伝えています。
- Xには、AIのデータの保管先としてテープを紹介する投稿と、「回帰ではなく、バックアップは昔からずっとテープ」という投稿があり、家庭のカセットやVHSと、会社で使われてきたデータ用のテープという、別のテープを思い浮かべている違いが背景にありそうです(編集部の見立て)。
- データ用の磁気テープは1951年のコンピューター用から使われ続け、2000年からのLTOという規格では容量が100GBから40TBまで伸びていて、ネットから切り離して保管できることなどが今も選ばれる理由とされています。
磁気テープは、磁石の性質をもつ粉を塗った細長いテープに、音や映像やデータを記録するものです。家庭ではカセットテープやVHSのビデオテープが身近でした。このページでは、会社やデータセンター(たくさんのコンピューターを置いて、ネットのサービスを支える建物)でデータの保存に使われてきたテープを中心に、なぜ消えずに残ってきたのかを年表で整理します(2026年10月29日時点)。
増産は何が発表され、報じられた?
富士フイルムは10月29日付のニュースリリースで、神奈川事業場小田原サイトに約100億円(2026〜2028年度)を投資し、データストレージ用磁気テープの製造能力を約5倍にすると発表しました。「約5倍」は出荷容量ベースで、2025年度との比較です。投資は、最新世代の『FUJIFILM LTO Ultrium10』を中心とした製造設備の増強と、安定供給のための増員に充てるとしています。約100億円は、同社のLTOテープ専用設備への投資としては過去最大規模だと説明しています。理由は、生成AIの普及に伴って高まるデータアーカイブ(長く保存しておくデータ)の需要への対応です。
この発表の前日、10月28日の朝に、日経電子版が次のポストで先に報じていました。
富士フイルム、磁気テープ20年ぶり大型増産 AIデータ保存リスク低くhttps://t.co/b73tZGzcOm
— 日本経済新聞 電子版(日経電子版) (@nikkei) 2026年10月28日
富士フイルム、磁気テープ20年ぶり大型増産https://t.co/S2VZMAC8wj
データセンター事業者や金融機関、研究機関のデータバックアップに使われます。ネットワークから切り離し長期保存が可能。サイバー攻撃によるデータ改ざんや消失を防ぎやすいのが特長です。
— 日本経済新聞 電子版(日経電子版) (@nikkei) 2026年10月28日
日経電子版が10月28日の朝5時に出した記事は、最大100テラバイトの先端品を中心に増産する計画で、大規模な増産投資は約20年ぶりと伝えています。このテープの使われ方は、2つ目の日経のポストにあるとおり、データセンター事業者や金融機関、研究機関のデータバックアップです。
テラバイト(TB)は、データの量の単位です。1TBは1,000GBで、スマホの保存容量でよく見るGBの千倍にあたります。日経電子版の報道を配信したトレーダーズ・ウェブ(Yahoo!ファイナンス掲載)では、容量ベースの出荷量を2025年度比で5倍に高めると書かれています。日経の言う「約20年ぶり」は、大きな増産投資が約20年ぶり、という意味です。テープを20年間作っていなかったという話ではありません。
富士フイルム自身は、2025年12月のニュースリリースで、『FUJIFILM LTO Ultrium10(40TB)データカートリッジ』を2026年1月に発売すると発表していました。1巻で最大100TB(圧縮しないときは40TB)です。「圧縮」は、データをぎゅっと小さくして詰め込むことで、100TBは圧縮がうまくいった場合の最大の数字です。リリースでは、ネットワークから物理的に切り離した場所で保管できるので、サイバー攻撃でデータが失われるおそれを低くできると説明しています。
「回帰」と「ずっとテープ」──2つの見方
Xには、この報道について見方の違う投稿がありました。ここで書くのは、本文を実際に読んで確かめた2件の内容だけで、どちらの見方がどれだけ多いかは分かりません。X APIを使えないため網羅的には調べておらず、海外の反応も集めていません。個人の名前や投稿の埋め込みは出さず、内容だけを書きます。
AIのデータの保管先として、テープを紹介する投稿
10月28日の朝、解説系の投稿が、世界中のAIデータの最終保管先はいまもLTOの磁気テープだと紹介しました。AIの流行の行き着く先をテープにたとえる書き出しで、ネットから切れているのでランサムウェアも届かない、という点にも触れています。この投稿には保存コストの倍率や、テープの磁性体を作れる会社の数なども書かれていましたが、出典を確かめられなかったので、このページでは使いません。
この投稿は「回帰」という言葉は使っていません。ただ、データ用のLTOを、書き出しでは家庭のカセットテープの名前で呼んでいます。「回帰」と受け止める見方に根拠がありうるとすれば、家庭向けのVHSデッキの国内生産が終わったことです(下の表の左の列)。これは編集部の整理で、投稿した人に確かめたわけではありません。
「回帰ではなく、昔からずっとテープ」という投稿
同じ日の朝には、「回帰」という言い方に対して、バックアップは昔からずっとテープで、増産は扱う量が大きくなったためだ、と見る投稿もありました。この投稿は、テープを昔から続く仕事の道具として見ています。こう見る根拠にもなりうるのが、2000年にLTOが出てから新しい世代が出続けてきたことです(下の表の右の列)。
ずれの理由の見立て──別のテープを思い浮かべていたのかもしれません
ここからは編集部の見立てで、投稿した人に確かめたわけではありません。2つの見方は、同じ「磁気テープ」という言葉で、別のテープを思い浮かべていそうです。どちらにも根拠があります。
| 家庭のテープ(カセット・VHSなど) | 業務のテープ(LTOなど) | |
|---|---|---|
| 何を記録する | 音楽や映像。昔はパソコンのプログラムも | 会社やデータセンターの、バックアップや保存用のデータ |
| 広がった時期 | 1963年のカセット、1976年のVHSから | 1951年のコンピューター用から |
| 今 | 国内では2011年に大手が生産を終え、その後は船井電機だけが作っていたVHSデッキも、2016年7月末に生産が終わった | 2000年から新しい世代が出続け、出荷された容量は2024年に過去最高 |
家庭のテープのうち、VHSデッキは国内メーカーの生産が終わりました。カセットテープが今どれくらい身近なのかは、このページでは調べていません。船井電機のVHSデッキは、ピークの2000年には国内外で年1,500万台を超えて売れていましたが、2015年には75万台まで減りました。部品の調達が難しくなり、生産を続けられなくなったと同社は説明していた、とJ-CASTが伝えています。
業務のほうは、数字を見ると「ずっと」も「増えた」も当たっています。業界団体のLTO Programが2026年9月に発表したところでは、出荷されたテープの容量は2024年が176.5エクサバイト(1エクサバイトは100万TB)で過去最高、2025年はそこから9%減の160.3エクサバイトでした。ところが2026年1〜3月は、前年の同じ時期より57%増えています。発表の中で、アナリストのTom Coughlin氏は、AI向けの設備づくりと、従来のアーカイブ(長く残すための保存)の需要の伸びが背景にあると話しています。同団体は、LTO-9の出荷が堅調だったことと、LTO-10の立ち上がりも挙げています。
つまり、ずっと出荷されてきたテープの量が、ここへきて増えている、というのが数字から読める姿です。AIの影響の大きさまでは、この数字だけでは分かりません。「回帰」と「量が増えただけ」は、どちらも半分ずつ合っているように見えます。
磁気テープの年表、1951年から2026年まで
表の「種類」は、会社やデータセンターで使われたものを「業務」、家庭向けのものを「家庭」としています。パソコン用にカセットを使った例は「家庭(パソコン)」と書きました。
| 年 | 種類 | できごと |
|---|---|---|
| 1951年6月 | 業務 | Remington Rand社が、コンピューター『UNIVAC I』の付属装置として、金属のテープを使う「世界初の磁気テープ装置」を出した |
| 1952年5月 | 業務 | IBMが、同社初の商用の磁気テープ装置『IBM 726』を発表した |
| 1959年 | 業務 | 5月に日本電気が、1/2インチ幅・8トラックのテープ装置『542』を完成させた。同じ年、富士フイルムが日本初の放送用ビデオテープを開発した(同社の説明) |
| 1963年8月 | 家庭 | Philipsが、コンパクトカセットをベルリンのラジオショーで発表した(欧州。英語版ウィキペディアによる) |
| 1976年 | 家庭 | 日本ビクターのチームが開発したVHSの初号機『HR-3300』が、9月9日に発表された |
| 1979年 | 家庭(パソコン) | 『PC-8001』が発売された。プログラムをカセットテープに録音して保存し、再生して読み込む使い方があった |
| 1984年 | 業務 | 2月にDECがDLT規格のテープ装置を、3月にIBMが『IBM 3480』を発表。IBMの18トラックのカートリッジ規格が標準として広がった |
| 2000年 | 業務 | LTOの最初の世代(LTO-1)が使えるようになった。1巻あたり最大100GB(圧縮しない場合) |
| 2016年7月末 | 家庭 | 船井電機がVHSデッキの生産を終えた |
| 2021年9月 | 業務 | 富士フイルムが『LTO Ultrium9』を発売したと報じられた。18TB(圧縮しない場合。圧縮時は最大45TB)で、1つ前のLTO-8の1.5倍 |
| 2025〜2026年 | 業務 | LTO-10が出た。30TBのカートリッジに加え、富士フイルムが2026年1月に40TBを発売 |
| 2026年10月28〜29日 | 業務 | 日経が富士フイルムの磁気テープ大型増産を報じ(28日)、富士フイルムが製造能力を約5倍にすると発表した(29日) |
出典は次のとおりです。1951年から1984年の業務用の動きは、情報処理学会コンピュータ博物館の磁気テープの年表と、富士フイルムの事業の説明。カセットは英語版ウィキペディア、VHSは電気電子学会(IEEE)が選んだマイルストーンの記録、『PC-8001』はPC Watchの回想記事です。LTOはLTO Programの25年の紹介、AV Watch(2021年9月)、LTO-10の紹介ページによります。2026年10月の増産は、富士フイルムのニュースリリースと日経電子版の記事によります。
おもしろいのは、1951年から1952年に始まった業務用のテープが、1984年のカートリッジ化などを経て、2000年のLTOにつながっていることです。富士フイルムは、1959年に日本初の放送用ビデオテープを開発して以来、独自の技術を進化させてきたと説明しています。編集部の整理では、放送用のビデオテープと、今回増産されるデータ用のテープは、同じ会社の磁気テープの技術の流れにあります。
家庭のほうは、1963年のカセットや1976年のVHSで暮らしに入り込み、パソコンの黎明期には、プログラムを音の信号にしてカセットに録音する使い方まで生まれました。ただし、読み込みはテープとレコーダーの相性でエラーになることもあったと、PC Watchは振り返っています。
なぜ業務では消えなかった? 強みと弱み

データ用のテープの代表的な規格がLTO(エルティーオー)です。HPE、IBM、Quantumの3社が仕様を支える、複数のメーカーの機器やテープで相互に使える「オープン」な規格だと、LTO Programは説明しています。2000年の最初の世代は100GBでしたが、LTO-9は18TBで、LTO Programは「最初の180倍以上」と書いています。LTO-10の40TBは、100GBの400倍です。
残ってきた理由として、メーカーや業界団体は主に3つを挙げます。どれも売る側の説明なので、割り引いて読む必要はあります。
ひとつめは、ネットから切り離せることです。テープは機械から取り出して棚にしまえるので、しまっている間はネットにつながっていません。これを「エアギャップ(空気のすき間があるように、つながっていない状態)」と呼びます。LTO Programは、ランサムウェア(データを勝手に暗号化して使えなくし、元に戻すかわりにお金を求める不正なプログラム)の被害を調べたVeeam社の2023年の調査を引いて、被害の93%で、攻撃者がネットにつながったバックアップの置き場を狙い、被害を受けた側の75%が、攻撃の最中に少なくとも一部のバックアップを失ったと紹介しています。業界団体のページが引く調査なので、数字はそのつもりで見てください。取り出して別の場所にしまってはじめて成り立つ話で、つなぎっぱなしのテープ装置では同じ効果は期待できない、というのは編集部の補足です。
2つめは、費用です。富士フイルムは費用対効果にも優れると説明し、英語版ウィキペディアは「大量のデータをためておく媒体として最も安い」と書いています。実際にいくら違うかは使い方で変わるので、このページでは倍率は書きません。
3つめは、長く置いておけることです。富士フイルムは長期保存の性能が高いと説明し、英語版ウィキペディアも、長期の保存が求められる場面に合うと書いています。何年もつかという数字は、確かめられた出典がありませんでした。
弱みもあります。英語版ウィキペディアによると、テープは最初から順番に読む仕組みなので、途中のデータを取り出すのが苦手です。ディスクなら10ミリ秒ほどで最初のデータが返る場面でも、テープは100秒以上かかることがあり、その差は1万倍とされています(時間がかかる場合の比較の例です)。さらにLTOは、世代が進むほど読める範囲が狭くなってきました。LTOの公式のQ&Aによると、LTO-9の機械が読めるのはLTO-9とLTO-8のテープまでで、LTO-10の機械が読み書きできるのはLTO-10のテープだけです。古いテープの中身を読むには、その世代に合う機械が要ります。
英語版ウィキペディアは、テープはバックアップや長く残すためのデータ、ランサムウェア対策のオフラインのコピーなど、普段はつないでおかないデータの置き場に向く、と書いています。編集部の整理では、すぐ取り出して使うデータはディスク、しまっておくデータはテープ、という分担です。「回帰」と受け止めた投稿と「ずっと使っていた」という投稿が、同じ増産のニュースを別の意味で受け取ったのは、このためかもしれません。
消えた物とテープ──今に残ったもの
ネットのサービスが終わると、中にあったデータごと見られなくなる例が続いてきました。『ジオシティーズ』や『Flash』の例は、ネットは一生残るのかを整理したページで、「誰かがコピーを持っているか」が残るかどうかの分かれ目ではないか、という編集部の見立てとともにまとめています。テープは、そのコピーを持ち主の手元の棚に置ける形の保存です。運営会社の都合で置き場ごと消える心配とは、別の種類の保存だといえます。11月25日にデータが全部削除される『uploader.jp』の終了のように、置き場ごと消える出来事は今も起きています。
10月には、ランサムウェアが原因と発表されたクラウドの停止もありました。不正アクセスなどで止まったサービスの一覧に、ランサムウェアの説明と合わせて整理しています。ただ、そうした停止がテープで防げたかどうかは、今回の報道の範囲では分かりません。
家庭向けのテープには、VHSデッキの国内生産が終わったように、身近ではなくなった物もあります。それでもテープという形は、データセンターの棚の中で、100GBだった容量を40TBまで伸ばしながら続いてきました。「回帰」と受け止める見方が出たのは、家庭のテープのほうを思い浮かべた人がいたからかもしれません。業務のテープの側から見れば、そもそも離れていなかった、ともいえます。
まだ分かっていないこと
- 「約5倍」がいつまでにそろうのか。投資は2026〜2028年度ですが、出荷容量5倍になる時期は、富士フイルムのリリースにも日経の公開部分にも書かれていません
- AIの需要が、増産分をどのくらい埋めるのか
新しい情報が出たら、このページに書き足します。


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