回転寿司・焼肉チェーンで「静かな客離れ」が進行中──値上げの裏で広がる”外食格差”の実態

コラム

「回転寿司、最近高くない?」──そんな実感を持っている方は少なくないでしょう。

東洋経済オンラインの報道でも指摘されている通り、外食チェーンの「静かな客離れ」が進行しています。売上高は値上げで維持できているように見えても、客数は確実に減っている──その背景にある構造的な問題と、日本の「外食文化」が直面する転換点について考察します。

「1皿100円」時代の終焉

まず、回転寿司チェーン各社の値上げ状況を整理します。

チェーン 値上げ時期 主な変更内容 100円皿
スシロー 2022年10月 黄皿100円→120円、赤皿165円→180円 終了
くら寿司 2022年10月 1皿115円に値上げ 終了
はま寿司 2024年12月 110円→121円、約半数の商品が対象 実質終了
かっぱ寿司 段階的 100円皿を維持していたが順次縮小 縮小中

かつては「家族で気軽に行ける外食」の代名詞だった回転寿司ですが、今や4大チェーンすべてで「1皿100円」が消滅しています。

売上は維持、でも客は減っている

東洋経済の記事が指摘する最も重要なポイントは、「売上高の維持=好調ではない」ということです。

上場外食企業の既存店データを見ると、売上高はまだ堅調に見えます。しかしその内訳を分解すると、客単価の上昇(=値上げ)で売上を維持しているだけで、客数は前年割れが目立ちます。

各チェーンの客数への影響

チェーン 客数の状況
スシロー 値上げ直後(2022年10-12月)に客数-20〜27%の大幅減。その後回復傾向
くら寿司 2024年10-12月に既存店売上が3ヶ月連続マイナス
かっぱ寿司 12ヶ月連続で既存店客数マイナス。業界「一人負け」状態
はま寿司 「最後の100円寿司の砦」だったが2024年12月に実質値上げ

焼肉業界はさらに深刻──倒産件数が過去最多

回転寿司以上に厳しいのが焼肉業界です。

焼肉店倒産件数 前年比
2023年 30件 ──
2024年 45件 +50%
2025年 59件 +31%

2009年の集計開始以来、初めて50件を突破しました。倒産原因の81.3%が「販売不振」、つまり値上げ→客離れ→売上減という悪循環です。特に従業員5人未満の小規模店が72.8%を占めており、体力のない個人店から順に淘汰されている実態が浮かび上がります。

なぜこんなに値上げが必要なのか

外食チェーンが相次いで値上げに踏み切る背景には、複合的なコスト上昇があります。

  • 原材料費高騰: 回転寿司の原価率は40〜60%と飲食業界で異常に高い(一般的な飲食店は15〜30%)。円安による輸入魚介類の価格上昇が直撃
  • コメ価格の高騰: 「令和のコメ騒動」の影響。100%国産米を使用するチェーンには特に痛手
  • 中国との「買い負け」: マグロ・サーモンなど主要ネタで、中国の購買力に買い負けるケースが増加
  • 人件費上昇: 最低賃金引き上げによるコスト増
  • 物流費: エネルギー価格高騰による輸送コスト増

広がる「外食格差」

この問題の本質は、単なる値上げではなく「外食格差」の拡大にあります。

2025年のエンゲル係数(家計に占める食費の割合)は28.6%と44年ぶりの高水準を記録。しかもこの数字は平均値であり、所得階層によって大きな差があります。

年収層 エンゲル係数
年収1,152万円以上 24.1%
年収280万円未満 34.4%

低所得層は食費の割合がすでに34%を超えており、外食を真っ先にカットせざるを得ない状況です。かつて「安い外食」の代名詞だった回転寿司が、家計に余裕がないと行けない存在に変わりつつあるのです。

価格を据え置いた企業は客数増

一方で、値上げを最小限に抑えた企業は客数を伸ばしています

  • サイゼリヤ: 価格据え置き戦略で客数増加
  • 鳥貴族: コスパの高さで支持を維持
  • 幸楽苑: 郊外型・低価格ラーメンで客数増

これらの企業は平均で+5%以上の客数増加を実現しており、「値上げしない=損」ではなく、「値上げしない=客を奪える」という逆転現象が起きています。

さらなる逆風──「食料品消費税ゼロ」で外食だけ取り残される?

2026年に議論が進む「食料品消費税ゼロ」政策が実現した場合、外食業界にはさらなる逆風が吹きます。

現在はテイクアウト(軽減税率8%)と外食(10%)の差は2%ですが、食料品がゼロになれば外食だけ10%の税がかかる形に。コンビニ弁当やスーパーの総菜が無税で買えるのに、外食だけ10%──この差は消費者行動を大きく変える可能性があります。

【考察】「安い外食」は日本の文化的資産だった

ここからは筆者独自の考察です。このデータから読み取れるのは、単なる外食産業の構造変化ではなく、日本独自の「安くて美味い外食文化」が岐路に立たされているという大きな潮流です。

そもそも、1皿100円で新鮮な寿司が食べられる国は世界中を見渡しても日本くらいのものでした。これは原材料の大量一括仕入れ、タッチパネルやレーン配送による徹底的な省人化、そして何より「薄利多売」を支えてきた圧倒的な客数があってこそ成立していたビジネスモデルです。

しかし、原材料費・人件費・エネルギーコストがすべて同時に上昇する中で、このモデルは限界を迎えつつあります。値上げをすれば客が減り、客が減ればスケールメリットが失われ、さらなる値上げが必要になる──この負のスパイラルから抜け出すには、「安さ」以外の付加価値を打ち出すしかありません。

サイゼリヤのように「絶対に価格を上げない」戦略で客を集める企業もありますが、これは圧倒的な規模と仕入れ力、海外展開による利益分散があってこそ可能な戦略です。すべてのチェーンが真似できるものではないでしょう。

もうひとつ見逃せないのが、「外食の心理的ハードル」の上昇です。かつて1皿100円の回転寿司は「迷ったら行ける」存在でした。しかし1皿150円になり、ファミリーで5,000円を超えるようになると、「今日は回転寿司にしよう」という判断にちょっとした覚悟が必要になります。この心理的な変化は、数字には表れにくいものの、客数減少の大きな要因ではないでしょうか。

まとめ

回転寿司チェーンの「100円時代」は完全に終わりました。焼肉店の倒産は過去最多を更新し、外食業界全体が「値上げ→客離れ→さらに値上げ」の悪循環に陥るリスクを抱えています。

「家族で回転寿司に行くのがご褒美になる日」──それは冗談ではなく、すでに現実になりつつあります。かつての当たり前が、振り返ってみればとても豊かな時代だったのかもしれません。

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