マクドナルド、ゆっくり素材の無断使用で謝罪──3500万再生CMの制作過程で何が起きたか

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  • マクドナルドが3500万再生のプロモ動画で「きつねゆっくり」素材を無断使用し、制作者に謝罪しました。
  • 制作者のきつね(仮)氏は「映像内に自分の素材が残っていた」と報告し、マクドナルド側もプロセスの不備を認めました。
  • ゆっくり素材は「東方→AA→立ち絵」の三段階の二次創作チェーンで、企業が権利関係を見落としやすい構造になっています。

3500万再生「霊夢と魔理沙とモチモチの木」CM、謝罪に至るまで

2026年2月18日、日本マクドナルドは新商品「クリームブリュレホットドーナツ」のプロモーション動画を公開しました。タイトルは「霊夢と魔理沙とモチモチの木」。名作絵本『モチモチの木』の世界にゆっくり霊夢と魔理沙が登場し、声優・檜山修之さんの熱演、さらにはドラッグストア・ザグザグのCMソングまで飛び出すという、カオスな内容でした。

動画は瞬く間に拡散され、X上で3500万回以上再生、22万いいねを超える大反響を呼びました。「ガチで意味不明」「担当者は正気か」といった驚きの声が飛び交う一方、「逆に天才」と評価する声もあり、バズマーケティングとしては大成功に見えました。

ところが、公開から数日後にSNS上で「このゆっくりのデザイン、きつねゆっくりに似すぎていないか」という指摘が上がり始めます。「きつねゆっくり」とは、ニコニコ動画のゆっくり実況文化で広く使われている立ち絵素材のことです。制作者であるきつね(仮)氏は「本件について事前に把握していなかった」と投稿し、問題は一気に表面化しました。

動画は3月中旬までに削除。そして2026年3月26日、きつね(仮)氏が自身のXアカウントで経過報告を投稿しました。

https://x.com/yukkurisozai/status/2037025691607474671

この投稿によると、マクドナルド側は「制作過程において適切なプロセスが十分に取られていなかった点があった」と認め、きつね(仮)氏に謝罪したとのことです。きつね氏は「提示された対応は適切であった」とし、本件は既に解決済みであると報告しています。投稿は447万表示を超え、大きな反響を呼んでいます。

「素材が映像内に残っていた」──きつね(仮)氏の声明が意味すること

この騒動で最も注目すべきポイントは、きつね(仮)氏の声明に含まれた「映像内に私の制作素材が一部残っている」という一文です。

これは単に「デザインが似ている」というレベルの話ではありません。制作過程のどこかで、きつね氏が制作した素材データそのものが参照され、最終的な映像にその痕跡が残っていたことを意味しています。

大企業のプロモーション動画は通常、広告代理店を経由し、さらに映像制作会社に外注されます。制作会社の現場では、参考資料としてネット上の素材を一時的に使い、最終的にオリジナルに差し替えるワークフローは珍しくありません。ところが、その「差し替え」が完全に行われず、元素材の一部が残ってしまった──というのが今回の問題の構造です。

制作者本人に事前連絡すらなかったという事実は、この素材が「参考」ではなく「流用」に近い形で使われていた可能性を示唆しています。

ZUN→ゆっくりAA→きつね立ち絵──三段階の二次創作チェーンと権利の所在

ゆっくり素材の権利関係がここまで複雑になる理由は、その成り立ちにあります。

まず原作です。「東方Project」は同人サークル「上海アリス幻樂団」のZUN氏が制作したゲームシリーズで、霊夢と魔理沙はその看板キャラクターです。東方Projectには公式の二次創作ガイドラインがあり、個人やサークルの二次創作活動は広く許可されています。ただし、企業が営利目的で二次創作を利用する場合は「個別に問い合わせが必要」と明記されています。

次に「ゆっくり」の層があります。霊夢と魔理沙を丸い饅頭のようにデフォルメした「ゆっくりしていってね!」のAA(アスキーアート)は、2ちゃんねるで生まれた文化です。東方の二次創作でありながら、ほぼ独立したミーム文化として20年近く発展してきました。

そして「きつねゆっくり」の層です。きつね(仮)氏は、このゆっくりキャラクターをさらに立ち絵素材として描き起こし、ニコニコ動画のゆっくり実況者に広く配布してきました。利用規約では非商用利用が原則で、商用利用には個別の連絡と許可が必要とされています。

つまり、ゆっくり素材には「ZUN(東方の原作者)→ AA文化(2ch発のミーム)→ きつね(仮)氏(立ち絵制作者)」という三段階の権利チェーンが存在します。企業がこの素材を使いたいなら、少なくともきつね氏への連絡は必須であり、場合によっては東方Projectの公式ガイドラインにも準拠する必要があります。

企業が二次創作を「使いたい」とき、何をすべきだったのか

今回のケースから見えてくる教訓は明確です。

第一に、ネット文化の素材には必ず制作者がいるということです。「フリー素材だろう」「みんな使っているから大丈夫だろう」という認識は、企業利用においては通用しません。きつねゆっくり素材は個人利用では広く開放されていますが、商用利用には明確に許可が必要です。

第二に、下請け構造の中で「素材の出所確認」が抜け落ちるリスクです。広告主→代理店→制作会社と外注が重なるほど、「この素材は誰のものか」というチェックが形骸化しやすくなります。今回のマクドナルドのケースは、まさにこの構造的な問題が表面化した事例です。

第三に、二次創作文化には独自のルールと信頼関係があるということです。東方Projectの二次創作コミュニティは20年以上の歴史を持ち、「個人の創作活動は自由に、企業利用は許可制」というバランスで成り立ってきました。このルールを無視することは、コミュニティ全体の信頼を損なうことにつながります。

きつね(仮)氏は、マクドナルド側の対応を「適切であった」と評価し、本件の解決を報告しています。企業側が迅速に事実関係を認め、謝罪と対応を行った点は評価できます。しかし、同じ問題が別の企業や案件で繰り返されないためには、「ネット素材=誰かの作品」という認識を、制作フロー全体に根付かせることが不可欠です。

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