「享年に歳はいらない」がXで話題──調べたら最近のメディア校正ミスが止まらなかった

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  • 「享年に歳はいらない」という指摘がXで大きな反響を呼んでいます。
  • 調べてみると「享年70歳」は完全な誤用ではなく、朝日新聞校閲センター自身が「あり・なしどちらもOK」と認めています。
  • 一方で、テレビ・新聞の校正ミスは近年明らかに増えており、事例を並べると深刻さが浮かび上がります。

「享年に『歳』はいらない。朝日の校正、最近ほんまひどい。」──美術ジャーナリストの新川貴詩氏がXに投稿したこのポストが、大きな反響を呼んでいます。新聞記事の「享年70歳」という表記を指摘したもので、数千件のいいねと数百件のリポストが集まりました。

「享年」は「天から享(う)けた年数」を意味する言葉で、それ自体に「年」の意味が含まれているため「歳」をつけると重複表現になる──というのが従来の定説です。しかし、この話を掘り下げていくと、単純に「誤用だ」とは言い切れない事情と、それ以上に気になるメディアの校正事情が見えてきました。

「享年に歳はいらない」がXで話題に

話題のきっかけとなったのは、2026年3月28日に投稿された新川貴詩氏のポストです。朝日新聞の記事中にあった「享年70歳」という表記を撮影し、校正の質を問う内容でした。

新川氏は雑誌・新聞・Webで執筆活動を行う美術ジャーナリストで、多摩美術大学の非常勤講師も務めています。出版社勤務の経験もあり、日本語の用法に対する感度が高い書き手です。

このポストに対して「知らなかった」「勉強になる」という声が多く寄せられる一方、「本当に誤用なのか?」という疑問も上がりました。

そもそも「享年70歳」は本当に誤りなのか

結論から言えば、「享年70歳」は完全な誤りとは言い切れません。

「享年」と似た言葉に「行年(ぎょうねん)」があります。「享年」が「何年生きたか」(年数)を表すのに対し、「行年」は「何歳まで生きたか」(年齢)を表す言葉です。この違いから、「享年70」(歳なし)「行年70歳」(歳あり)が本来の使い分けとされてきました。

しかし、実際には広辞苑をはじめとする国語辞典にも「享年〜歳」の用例が掲載されています。さらに注目すべきは、朝日新聞の校閲センター自身がこの問題についてXで発信していることです。

「辞典には共に文例が。つまり、あり・なしOK」──当の朝日新聞がそう認めています。共同通信社の『記者ハンドブック』に「享年」が掲載されたのは2022年の第14版が初めてで、それまでメディア内でも統一見解がなかったことがうかがえます。

つまり「享年に歳はいらない」という指摘は、伝統的な用法としては正しいものの、現代の辞書やメディアの基準では許容されている表現でもあります。言葉は時代とともに変わるものですが、この「どちらもOK」という曖昧さが、かえって議論を呼びやすいテーマになっています。

「愛子さま刺殺」「怪しいお米セシウムさん」──メディアの校正事故を振り返る

「享年」の話で終わるなら小さなトリビアですが、最近のメディアの校正ミスを並べてみると、指摘者の「校正、最近ほんまひどい」という感覚にうなずかざるを得ません。ここ数年の主な事例を時系列で振り返ります。

時期 メディア 内容
2011年8月 東海テレビ 情報番組『ぴーかんテレビ』で岩手県産米プレゼント企画中、当選者名に「怪しいお米 セシウムさん」「汚染されたお米 セシウムさん」というテスト用ダミーテロップが23秒間放送。番組は打ち切り、役員・社員8人が処分されました。東日本大震災直後という時期も相まって、テレビの校正事故として今も語り継がれる事例です。
2024年10月 フジテレビ 『Live News イット!』で愛子さまの佐賀城ご訪問を報じた際、「視察」と表示すべきところを「刺殺」と誤表記。ミスに最初に気づいたのは局内関係者ではなく視聴者でした。
2024年10月 日本テレビ 愛子さまの和紙制作体験の映像に「やばい やばい」のテロップを表示。実際は「難しいです」等の発言だったとされています。
2025年3月 日本テレビ 『月曜から夜ふかし』で中国出身女性への街頭インタビューを編集し、「中国ではカラスをみんな煮て食べてしまう」と趣旨を捏造。全街頭インタビューの当面中止に。
2025年7月 読売・毎日 「石破首相、退陣へ」と号外を配布するも、首相本人が明確に否定。読売は約1カ月後に「結果として誤報」と陳謝。号外はメルカリで高額取引される事態にも。

テロップの誤字、事実誤認の号外、発言の捏造──「校正ミス」の範囲を超えるものも含まれますが、「メディアが出す文字情報の信頼性」という観点では地続きの問題です。

新聞社リストラとAI校正ツールの時代

こうしたミスが増えている背景には、メディア業界の構造的な変化があります。

朝日新聞社は2021年に45歳以上を対象に希望退職を募集し、111人が応じています。毎日新聞は年15〜20%のペースで部数が減少しており、産経新聞とともに地方からの撤退を発表しました。全国紙のビジネスモデル自体が揺らぐ中、校閲部門の体制がどうなっているかは推して知るべしです。

一方で、興味深い動きもあります。朝日新聞社は自社の校正履歴データを学習させたAI校正ツール『Typoless(タイポレス)』を2023年にリリースし、外部販売を始めています。2万文字の文章を約5秒で校正でき、2025年のアップデートでは誤検知を65%削減。グッドデザイン賞も受賞しています。

人を減らしながらAIツールを開発して売る──という構図は、メディア企業のサバイバル戦略として合理的ではあります。ただ、「校正の質が落ちている」と読者が感じる現状と、AI校正の精度向上の間にはまだギャップがあるようです。

なぜ私たちは「校正ミス」が気になるのか

「享年に歳はいらない」というポストがこれだけ反響を呼ぶのは、多くの人が「メディアの文字情報は正確であるべき」と感じているからでしょう。

もちろん、SNSで言葉の誤りを指摘する行為には「言葉警察」という批判もあります。「全然+肯定形」や「的を得る」など、実は誤用ではない表現を誤りだと断じるケースも少なくありません。今回の「享年」もまさにそのパターンで、「定説では不要だが、辞書的には許容されている」というグレーゾーンの話です。

それでも、テレビテロップの「刺殺」や号外の「退陣」のような明らかなミスが積み重なると、「このメディア、大丈夫?」という不安は広がります。新聞やテレビが「正確な情報源」であり続けるためには、校正はコストではなく投資だという認識が必要なのかもしれません。

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