「暗殺者のパスタ」「神父を首絞め」「半殺し」──日常会話で口にしたら凍りつきそうな言葉が、実は食べ物の正式名称だとしたら?
世界の料理には驚くほど物騒な名前がついています。しかしその由来を調べると、貧困・反教会感情・地域の文化が見えてくる。料理名は「その土地の歴史の圧縮ファイル」でもあるのです。
イタリアの「暗殺者のパスタ」──なぜ暗殺者なのか

「暗殺者のパスタ(Pasta dell’Assassino)」はイタリア・プーリア州バーリ発祥のパスタ料理です。乾麺をそのまま高温のフライパンに入れ、トマトペーストと唐辛子で「焦がしながら」仕上げる独特の調理法が特徴。水分を吸いながら焦げていく麺の風味は、通常のパスタとは別次元です。
「暗殺者」の名前の由来は諸説あります。最有力説は「あまりの辛さで食べた人を殺してしまう」というものですが、「一人でこっそり夜中に食べる孤独な料理」説も伝わっています。2010年代にSNSで拡散して日本にも広まり、レシピ動画が多数作られました。
「神父を首絞め」──農民の怒りが生んだパスタ

同じイタリアに、もっと直接的な名前のパスタがあります。ストロッツァプレーティ(Strozzapreti)──直訳すると「神父を首絞め(Priest Strangler)」です。
エミリア・ロマーニャ州が本場のこの手打ちパスタ、名前の由来は中世イタリアの反教会感情にあります。当時、カトリック教会は農民から卵を含む食材を税として大量に徴収していました。卵を取られた農民たちは、水・塩・小麦粉だけで作れるこのパスタを食べながら「憎き神父め」と呪いをかけた、というのが有力な由来説です。
別説では「あまりにおいしくて、大食いな神父が食べ過ぎて喉に詰まらせた」というものも。ユーモラスな由来を持ちながら、農民の怒りを反映した料理名でもあります。
日本の「半殺し」──方言で当たり前に使われていた言葉

日本にも物騒な料理名があります。
- 半殺し・皆殺し:おはぎのこと。餅米を「半分だけ搗く(つく)」と「半殺し」、全部搗くと「皆殺し」。群馬・長野などの方言で、農家では普通に使われていました。「今日は半殺しにする」をそのまま聞いたら凍りますが
- 鬼饅頭(おにまんじゅう):愛知・岐阜の郷土菓子。角切りにしたさつまいもを蒸したもの。ゴツゴツした見た目が「鬼の角(ツノ)」に見えることから
- 殺し柿:渋柿の渋みを取り除く処理(焼酎・温水など)をした柿のこと。渋みを「殺す」という動詞から来ています
スペイン・フランスにも「危険な料理名」はある

物騒な名前は世界各地に散らばっています。
- Ajo Blanco(アホ・ブランコ):スペインのスープ。「ブランコ」は「白」ですが、「アホ」はにんにくのこと(スペイン語)。日本語の「アホ」とは無関係ですが、日本人が初めて聞くと動揺します
- Salmorejo(サルモレホ):スペイン・アンダルシアのトマト冷製スープ。「塩漬け」に由来する普通の名前ですが、発音が「殺もれ」と聞こえるという声も
- Œufs en meurette(ウ・アン・ムレット):フランスのブルゴーニュ料理。赤ワインソースでポーチドエッグを煮るもの。「meurette」はフランス語でワインソースの意味ですが、語源は「muerte(死)」と関連するという説も
名前は「時代と民衆の声」の記録

「暗殺者のパスタ」も「神父を首絞め」も、その名前が生まれた時代の社会状況、貧困、反権力の感情を背負っています。料理名というのは、レシピだけでなく「その料理を食べていた人たちの感情」まで保存するアーカイブです。
旅行先や外食で見慣れない料理名に出会ったとき、ちょっと由来を調べてみると、意外な歴史が隠れているかもしれません。


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