通勤時間は「勤務時間」じゃないのに、事故が起きると労災になる謎ルールを整理する

コラム
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毎朝満員電車に揺られ、会社に着くころにはすでにへとへと——そんな経験がある方は多いと思います。でも、その「消耗した時間」は一切の賃金が支払われません。

「通勤時間は勤務時間じゃない」。これは法律上の原則です。ところが不思議なことに、その「勤務時間でない」通勤中に事故に遭うと、労災(労働災害)として認定されます。

どういうことか、整理してみます。

なぜ通勤時間は「労働時間」じゃないのか

日本では、労働基準法に基づき「労働時間とは、労働者が使用者(会社)の指揮命令下に置かれている時間」と定義されています(最高裁2000年・三菱重工業長崎造船所事件)。

通勤が「労働時間ではない」とされる理由はこうです。

  • どこに住むかは労働者が自由に選べる
  • どのルートで来るかも自由(指定はない)
  • 自転車でも電車でも徒歩でも、手段も自由

つまり、「会社はあなたがどこから来るかに関与していないのだから、その移動時間は会社の管理外」という建前です。

……でも、それって本当にそうでしょうか。

「ずるい」と感じる理由:計算してみると一目瞭然

日本人の平均通勤時間は片道約40分(往復約80分)。月20日出勤なら、毎月約27時間が無給の「拘束時間」として消えています。

東京圏に絞ると往復1時間35分。月20日なら月31時間以上。これは時給1,000円換算で約3万円分のサービス残業と同じ規模感です。

「どこに住むかは自由」と言っても、職場が渋谷にあれば埼玉や千葉から通わざるを得ない人も多い。「自由な選択」と呼ぶには無理があります。

矛盾その1:事故が起きたら「労災」になる

ところが、通勤中に事故に遭うと話が変わります。

労働者災害補償保険法(労災保険法)第7条では、「通勤」を以下のように定義して保護しています。

就業に関し、合理的な経路および方法によって行う、住居と就業場所の往復

つまり、会社に行くためのルートで事故が起きれば、けが・死亡・病気にかかわらず国が補償する制度が用意されているわけです。

「使用者の指揮命令下にない私的な時間だから無給」なのに、「就業に関連する移動だから事故は保護する」——この二枚舌が「ずるい」と感じさせる構造の核心です。

矛盾その2:「通勤災害」は「業務災害」より補償が薄い

さらにもう一段、複雑な事実があります。労災認定されたとしても、通勤中の事故(通勤災害)は業務中の事故(業務災害)より補償が手薄なのです。

項目業務災害通勤災害
医療費の自己負担ゼロ原則200円以下あり
休業初期3日間の補償会社が支払い義務補償なし
休業中の解雇制限解雇不可制限なし

「労働時間でも管理下でもないから無給」なのに「事故は保護する」、しかし「業務中よりは補償を薄くする」——3段階で積み上がった制度の歪みを感じます。

「帰りにコンビニ寄ったら対象外」という細かすぎるルール

通勤災害として認定されるには「合理的な経路・方法」を外れてはいけません。

たとえば帰宅途中にファミレスで1時間食事してから帰った場合、その後の移動は「通勤ではない」とみなされ、労災対象外になることがあります。一方でコンビニで日用品を買う程度なら「日常生活上必要な行為」として例外扱いされます。

「通勤時間は自己責任の私的時間」と言いながら、何をしていいか・何がNGかのルールは会社でも国でもなく法律で細かく決まっている——もはや「私的な時間」の定義が揺らいでいます。

欧州では「通勤=労働時間」と認めた判決がある

ちなみに、ヨーロッパでは少し違うアプローチが生まれています。

2015年、欧州司法裁判所(事件番号C-266/14・通称Tyco事件)は、「固定事務所を持たない外回り労働者が自宅から初めての顧客先に向かう移動時間は、労働時間に含まれる」と判示しました。

「会社都合で特定の場所に来させているなら、そこへ向かう時間も仕事の一部だ」という論理です。日本の判例はこの方向には向かっていませんが、「自由な選択」という建前の弱さを突いた考え方として参考になります。

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「理不尽」だと感じたら、まずテレワークを活用する

通勤時間を「労働時間に含めるべき」という声はSNSでも定期的に議論されますが、法律が変わる気配は今のところありません。

一方で、テレワークが普及したことで「通勤そのものをなくす」という選択肢は現実的になっています。フルリモートや週3出社なら、往復2時間を月10時間以上取り戻せます。

制度が変わらないなら、自分の働き方で対処する——というのが、今できる最も現実的な答えかもしれません。

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